虚妄

 私の休日は小鳥の囀りから始まる。6時に起床、シャワーを浴びてスクランブルエッグとマフィンを珈琲で流し込む。カーテンを開け、日光を大量に浴びながら清々しい面持ちでベランダに出る。耳をすませば青空の讃美歌が聞こえてくるようだ。嗚呼、世界はなんと美しいのだろう。胸いっぱいに息を吸い込む。尿意を催したので私はベランダに置いてある植木鉢に水やりがてら放尿し、部屋へ戻る。

 気付けば時刻は8時、そろそろ外出の準備をしなければならない。私は一回全裸になって全身にアロマオイルを塗りたくり、しまむらで購入したおそらく店内で一番高額だと思われる衣服を身に付け外へ出る。

 山手線に乗車し、うっかり5時間ばかり寝過ごし慌てて秋葉原駅で降車。軽やかな身のこなしでメイドカフェへ入店し、真実の愛の存在を確認したところで「釣りはいらんよ」と言い放ちスマートに会計を終わらせ店を出る。

 午後4時、新橋に降り立つ。適当なコンビニに立ち寄り、ストロング缶を3本購入。駅前の開けた場所でそれらを一気に飲み干し酩酊状態に体をもっていく。ここで新橋の酔っ払ったサラリーマンを取材に来るテレビ局のカメラを待つこと3時間、見ず知らずの有象無象から奇異の視線を向けられるだけだったのであえなく撤退。

 午後8時、千鳥足で池袋のバーに入店。しかしストロングの悪辣な仕打ちにより脳が機能を一部停止していたらしく、入店したのはどうやらバーではなくいかがわしいパブだったようだ。「ここはもしや吐瀉物を使っていかがわしいことをするような場所か?」と努めて平静なトーンで聞くと受付の店員が周囲の社員と相談して携帯のキーパッドに110という数字を打ち込み始めたので、慌てて小学生時代図工の時間に自作したFBIのIDカードを見せると途端に静寂が訪れた。やはりFBIという名前は有効だったようだ。その場にいる全員が私の特異性に魅せられているようだった。こんなところにいても仕方がない、そう思った私はよくわからないそのいかがわしげな店を脱け出し、煙草を吸っているフリをしながらチャッパチャップスをしゃぶって道を歩いた。

 メルカリで30万円で購入した『ジェネリックロレックス(中華)』という名の腕時計を見ると時刻はどうやら午後10時らしかった。もう家に帰らなければならない。

 家に帰り、電気を点けると飼い犬のパピヨンが尻尾を振りながら駆け寄ってきたのでコンビニで買ってきたビーフジャーキーを与えた。

 こんな休日も悪くない。そうだろ?私はかじりかけのビーフジャーキーに問いかけた。

 

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