災厄

 秋風が移ろい、流れる季節の中でふと日の短さを感じるようになった。そろそろ忙しく過ぎる日々の中に私とあなたで夢を描きたくなる。

 読者諸兄は如何お過ごしだろうか。僕は元気に過ごしているとは言い難い毎日を送っている。

 仕事のストレスからかわからないが、先週から毎日のように腹を下すようになってしまった。おかげで一日に何回もトイレに駆け込まなければならない。下痢の腹痛というのは、皮肉なことにすぐにトイレに行けないような閉塞的な環境の中で生じやすい。電車の中とか、すぐに席を外せないような仕事をしている最中に限って突然襲いかかってくる。僕は生来的に腸が弱いので(貧弱そうなイメージを喚起させるのであまり言いたくないが)、そういう突発性の腹痛は何回も経験しているのだが、毎日のように下痢の腹痛が続くのは今回が初めてで「ん、もしかして本格的に死に近付いているのか?」と危惧せざるを得ない。

 毎日こんなキツい腹痛が続いては埒が明かないから仕方なく病院に行ったところ『過敏性腸症候群』の可能性があるとして整腸薬を出してもらった。『過敏性腸症候群』というのは発症の原因が未だにはっきり解明されていないが、神経質な人間やストレスを感じやすい人間が腸の調子をおかしくしてしまうような病であるらしい。なるほどつまり導き出される結論は今すぐ退職代行サービスを利用し、遺書を書き上げた後自宅から私物を引き上げて誰も自分のことを知らない街に繰り出し無銭飲食を飽きるまで繰り返さなければならないということだ。そして終いには海外から密輸された違法ドラッグでギンギンに気持ちよくなった後、この大空に翼を広げ宇宙の果てまで飛翔していかなければいけないということなのだ。それ以外の結論が果たしてあるのだろうか。

 

 しかしやはりというべきか現実は残酷なもので、いや、残酷であるからこそ現実は現実なのであって、僕は結局Netflixとかいうサブスクリプションサービスで束の間の現実逃避を試みるということでしかストレスの軽減処置を実施出来なかった。

 まあNetflixで映画を観ることは現実逃避になるが、精神療養として機能するのかはわからない。英語音声英語字幕で洋画を観ることで語学学習の代替となり、延々と配信中のポルノ映画を鑑賞するだけでTOEIC990点が取得出来るようになるという保証があるのなら実益性のある行為にはなるだろうが、そんな保証はどこにもないしそんなポルノ映画もない。悲しい。

 

 願わくば今の環境を変化させ得るような能力が身につく生産性のある行為をしたいものだ。休日はそういうことをして時間を潰したいけれど、今の仕事をこれから何十年も続けていかなければいけないのかという恐怖と不安、強迫観念に押しつぶされそうになって何をするにも身が入らない。

 Netflixでも観ることが出来る映画『ニューシネマパラダイス』に「何をするにしても自分のすることを愛せ」というような台詞があった筈だけれど、僕は今やっていることを心の底から愛せる気がしない。まず自分のことが好きになれないから人のことも好きになれないし、もともと人間そのものがあんまり好きじゃないのかもしれない。そうなってくるともう救済の余地がない。人間を好きになろうとする努力をしても、人間の悪い部分だけ敏感に感じとって殻に籠るような人間だから、もう僕は人間というよりネガティブという概念を具現化したような存在だと形容した方が適切なのかもしれない。

 

 僕は気持ちが行き詰まりそうになるとこうやってブログで文章を書いて自分の感情の整理をしようとするけれど、毎回結局終着点が曖昧になる。どこに着地するのが正解なのかわからない。モヤモヤした感情をモヤモヤしたまま文章に投影してモヤモヤしたまま日常生活を続けていく、もはやこうやって文章を書くことに意味などないのかもしれない。だったらこの文章に費やした約30分にはどんな意義があったのだろう、教えてくれ『ジョーカー』……。腹痛の所為で大好きなラーメンが食べられないというフラストレーションで発砲してしまいそうだ。実のところ、この世で本当に愛せるのはラーメンだけなのかもしれない(キアヌ・リーブス)。

 

 

 

追記:Netflixで『結婚できない男』という阿部寛主演のドラマを全話観た。現在放送されている『まだ結婚できない男』の前編。日本のドラマはどことなく陳腐で安っぽい感じがして個人的にあんまり見てこなかったけれどこのドラマはそんな自分でもなかなか面白いと思えるほどに良い出来だった。

 

 

 

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