就職活動と悔恨と義憤

 よく偉そうに就職活動について講釈を垂れる人間がいる。これから就職活動を迎える後輩に熱い激励の言葉を浴びせかけ、大手企業の内定保持に起因する余裕を綽々と見せつける輩だ。別にその行為が悪いとは言わない。だが、その行為が就活生にとって必ず良い結果をもたらすとは限らないのもまた残酷たる事実である。だからせめて後輩に対する助言は、悪い結果をもたらさないようにするストッパー的な機能に留めるべきだ。間違っても、誤った選択をさせてはならない。無論どう行動するかは当人の自由であるが、その自由に他人の要らぬお節介があらぬ形で作用してはならない。就活生は、ただ周囲のアドバイスをそのまま遵守しなければならないという使命感に駆られなくていいという話だ。自分のやりたいように、本能のままに行動せよ、である。だから下記に述べる文言も、意に介さず読み流してもらって構わない。が、途中で読み進める内に「これは自分に該当するのでは…」と引っ掛かった人には、下記の文章は薬とまではいかずとも良いスパイスにはなるかもしれない。と、洒脱に見せかけた言い回しを何の恥じらいもなく公開したところで本題に入りたい。

 

 就職活動の前提とは何なのだろうか。唐突にこんなことを語りだすと、「やだこの人、就職を間近に控えて頭がおかしくなっちゃったんだわ、クッサwファブリーズかけとこ、シュッ」と思われるかもしれない。その反応もわかる(何故ファブリーズをかけられるかはわからないが)。ただこの記事を見ている読者諸賢の中にこれから就職活動を控えているというニューホープが存在するならば、どうしても伝えたいことがあったのだ。今から言うことを、ハナクソをほじりながらでもいいから聞いてほしい。とその前に正直に申し上げておくと、別に就活に対するノウハウだとかを偉そうに説教するつもりなどはないので、「うるせえええええ俺は絶対キー〇ンスに就職するんじゃいこのハゲエエエ!」とか「就職活動?まあ200社以上ES出すけど?」みたいに就職活動に対して呆れるほど前向きな人間はもう読むのをやめてもらって構わない。これ以上時間を無駄にさせるのも悪いので。僕は、就職活動に漠然とした不安を感じていたり、「何のために働くのかわかんね~、就職したくね~、PS4のコントローラーポチポチ…せや、任天堂にコネで就職すればええんや!(意味不明な思考回路)」みたいな無気力症候群に襲われていたりする人にこそ伝えたいことがある。それはもう就職活動の中身についてではなく、思いっきり前提の、スタートする前の段階についてのことなので、恐らくいまだに就職活動を始めていない、始める気にならない諸賢にとっては多少ヒントになるだろう。

 ここで少し話を変えるが(唐突)、諸賢の周りに海外インターン等に行ったり、就職活動の為に留学したりボランティアしたりしている人間はいないだろうか。周りを見渡せばそんな人間はゼロではないだろう。大学によっては、一年生の段階からキャリア教育と称してそのようなプログラムを組んでいるところもあるくらいだ。就職活動を念頭に置いて行動の指針を立てる大学一年生も少なくない。そして、諸賢の中にそうした知人の影響を受けて「今の内から就活中に強いカードを切れるよう何かやっときゃなんとかなるやろ」というどうしようもない奸計を巡らしている人がいるなら、今すぐその目論見を脳から捨てることだ。就職活動の為、という目的で始めた行動は大抵長続きしない。表面的には続けることは可能かもしれないが、やがて精神の方に限界が来る。それはゴール地点が何処だかわかっていないにも関わらず、とりあえずわかっている中継地点を目指して全力疾走するマラソンのようなものだ(なにこの比喩…)。就職活動の為に始めたことは、自分の本当にやりたかったことなのか。おそらく違う。自分が本当に好きでやりたいことは、そんな就活云々が脳裏によぎることなく直情的に「やりたい」と思うものだろう。ゴール地点が明確なのだ。途中で息切れすることはあれど、何処を目指せばいいかがわかっているから全力疾走で進める。それに対して、はっきり何をしたいのかも決まっていないのに、就活の時有利になるからという理由だけで何かをするというのは、前述したマラソンで言えばゴール地点を知らされていないにも関わらずとりあえずわかっている中継地点に全力疾走しているようなものだ。その途中、もしかしたら運の良いことに中継地点からゴールまでの間に使えるアイテムなどを収集出来るかもしれない。そのアイテムを使えば、足腰が強靭になったり、スピードを加速させられたりする。しかし、実際に走ってみると、中継地点に着いてからは整備されていない山道のような荒々しいものしか見当たらない。その道がゴールに続いているのかもわからない。当然アイテムも使えない。使い道のないアイテムをひたすら収集し続けていたのかと気付き、途方に暮れる。結果、最初からゴールがわかっていて、そのゴールまでの道を走る時に必要なアイテムを理解しており、それらを上手く駆使しながらゴールまでたどり着く者に先を越される。それが、何がやりたいかもわからないのに就職活動の為に何かをしようと思い立った人間の宿命だ。何だか書いていてやるせなくなってきたし、そもそも自分でも何を書いているのかよくわからない。大学の授業でのコメントカード現象が起きている。まあともかく、一度自分の本当にやりたいことを考えてみてくれということだ。僕は恥ずかしながらゴール地点を定めずに迷走してしまった。そして気付いたら就職というゴール地点ではなく、錯綜した道を彷徨っている内にTSUTAYAの黒い暖簾のある場所へと迷い込んでしまったのだった~完~。諸賢には二の轍を踏んでほしくない。

 

 就職活動を終えた大学4年生の割には、このような稚拙な指南しか出来ない(そもそも指南でも何でもなくだらだら個人的悔恨を書いているだけだ)のを許してほしいが、そんな稚拙な指南しか出来ないのは就職活動のやり方を間違えたからであり、間違えたからこそ僕は未来ある諸賢に間違えるなと言いたいのである。つまり最初の前提から誤ってはいけない。確かに、就職活動を「内定を乱獲する一種のゲーム」だと割り切るのも本人の自由だ。とりあえずマウントを取るために就活をする、それはそれで構わない。しかし、そういうマウンティング目的層の人間ではなく就活に対して漠然とした不安がある層の人間には、就職活動のために何かをするのではなく、何かがやりたいから就職活動をするのだという順序を間違えて欲しくない。まずはそのやりたい何かを見つけることだ。周囲と比べてどんなに出遅れたとしても、そこに一番時間を割くべきだと僕は思う。自分のやりたいことを見つける行為から逃げてはいけない。就職活動の一挙手一投足の動作は、その「自分がやりたいこと」という幹を中心にして派生していくものであるべきだ。「やりたいことなんてねぇよ~とりあえずホワイト高給なら何でもいいっすわ」みたいな思考では絶対に後悔する。自分の本心と対峙するその行為こそ本当の自己分析だ。そうした自己分析を経てから、企業の説明会などに足を運び、自分のやりたいこととのマッチングを図ればいい。そうすれば、少なくとも入社直前の2~3月の時期に、布団の中で身体を丸め「就職したくねァェァァェェェェェェアァァァァァ!」と羽毛に向かって絶叫するような症状には見舞われないだろう。まあ絶対的な保証はしないが。